転置行列で内積の計算がシンプルに、転置したら行列式はどうなる?

行列の行と列を入れ替えた行列を転置行列と言います。

転置行列の性質について書きます。

転置行列の定義

行列\(A\)が行列\(B\)の転置行列になっているというのは、行列 \(A\) の\(i\)行\(j\)列成分が行列 \(B\) の\(j\)行\(i\)列成分と同じ場合を言います。この状態を、行列Aは、行列Bの行と列が入れ替わってできているとも言います。

当たり前の事ですが、任意の行列 \(A\) に対して、ただ一つの転置行列が存在します。

その転置行列を\({}^t\!A\)と書きます。

転置行列を作る操作は、行列の一項演算子とみなすことができます。

転置行列の簡単な性質

定義からすぐにわかります。

\(a\)はスカラー、\(A\)は行列とします。

  • \({}^t\!({}^t\!A)=A\)
  • \(A\)が1行1列の行列の場合、\({}^t\!A=A\)
  • 一般に\(A\)が対称行列の場合、\({}^t\!A=A\)
    これは対称行列の定義です。
  • \({}^t\!(A+B)={}^t\!A+{}^t\!B\)
  • \({}^t\!(aA)=a{}^t\!A\) 

転置行列の記号

転置行列を表す記号はいろいろありますが主流は下記の2通りです。

行列\(M\)の転置行列を表す代表的な記号は次の通りです。

  • \({}^t\!M\) 
    行列の左側上に小文字のtを書きます。
    指数とぶつからないようにするにはこの記法が見やすいです。
  • \(M^\top\) 
    行列の右側上にアルファベットのTを書きます。
    指数のように見えてしまうので文字体を少し変えています。

転置行列の求め方

転置行列を求める時には、行列の行と列を入れ替えます。

すなわち、1行目を1列目、2行目を2列目という風に移動すると転置行列ができます。

\(A=(a_{i,j}),{}^t\!A=(b_{i,j})\)とすると、
\(b_{i,j}=a_{j,i}\)となります。

転置行列の積

行列の積と転置は入れ替え可能です。

ただし、積の順序が変わるので注意します。

\(({}^t\!A)({}^t\!{B})={}^t\!(BA)\)

正方行列の積でない転置の例

教科書などでは、
\({}^t\!(M\boldsymbol{a})={}^t\!\boldsymbol{a}{}^t\!M\)
のようにあっさり書かれることが多いです。

正方行列とベクトルの積のパターンは非常によくでてきて、慣れないと縦横がごっちゃになってきます。

このような式をみたら、下記のような式のイメージを持つように訓練すると式の意味が実感できます。そして、上記の書き方のありがたみが実感されます。

\(\left(
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{21} & a_{31} \\
a_{21} & a_{22} & a_{32} \\
a_{33} & a_{32} & a_{33}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}
\end{pmatrix}
\right)^{\top}
\)

\(=
\!\begin{pmatrix}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}
\end{pmatrix}^{\top}
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{21} & a_{31} \\
a_{21} & a_{22} & a_{32} \\
a_{33} & a_{32} & a_{33}
\end{pmatrix}^{\top}
\)

上記のような指数のない式を書く場合、転置記号は\(\top\)の方が楽ですね。

転置行列の行列式

転置しても行列式は保存されます(変わりません)

\(|{}^t\!A|=|A|\)

行列式はとてつもなくたくさんの項の和で行列式の計算は骨が折れます。

転置行列の行列式が元の行列の行列式と同じであることを証明するのは難しいのですが、よくよく考えると、まあ当たり前の事実です。

転置行列の逆行列

逆行列と転置は交換可能です。

\(({}^t\!A)^{-1}={}^t\!(A^{-1})\)

行列の逆行列を求めることは、簡単ではありませんが、上記の式が成立することを示す事はそう難しくはありません。

行列\(A\)の逆行列を\(B\)、単位行列を\(E\)とすると、

\(AB=BA=E\)が成立します。

この式の両辺の転置行列をとると

\({}^t\!B {}^t\!A={}^t\!A {}^t\!B={}^t\!E=E\)

この式から\({}^t\!B\)が\({}^t\!A\)の逆行列であることがわかります。

すなわち\(({}^t\!A)^{-1}={}^t\!B={}^t\!(A^{-1})\)です。

上記性質より、括弧を省略して
\({}^t\!A^{-1}\)と書いても混乱は発生しません。

転置行列と内積

転置記号をつかって(縦)(実)ベクトルの内積の定義を表すことができます。

内積

\(\boldsymbol{a}\)と\(\boldsymbol{b}\)の内積を、\({}^t\! \boldsymbol{a} \boldsymbol{b}\)で定義します。

ここでは、1行1列の行列をスカラーと同一視しています。

1行1列の行列は、転置をとっても変わらないので、

\({}^t\!\boldsymbol{a} \boldsymbol{b}={}^t\!\boldsymbol{b}\boldsymbol{a}\)です。

行列\(M\)に対して、\(M\boldsymbol{a}\)と\(\boldsymbol{b}\)の内積は、

\({}^t\!(M \boldsymbol{a}) \boldsymbol{b}\)ですが、これは

\({}^t\!( \boldsymbol{a}) ({}^t\!M \boldsymbol{b})\)と同じですので

\(\boldsymbol{a}\)と\({}^t\!M \boldsymbol{b}\)の内積と同じであることがわかります。

ベクトルの内積を\(\langle \cdot \rangle\)で表すとすると、

\(\langle M\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\rangle=\langle \boldsymbol{a},{}^t\!M \boldsymbol{b}\rangle\)

同じことですが、

\(\langle {}^t\!M\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\rangle=\langle \boldsymbol{a},M \boldsymbol{b}\rangle\)

と書いても同じ事です。

行列\(M\)が、転置行列を使うことで右、左に移動することができます。

内積の定義からは、なかなかこの事実を獲得しがたいものですが、行列の積として考えると自明な理となります。

転置行列を使うと、行列の積と内積を同じように扱えるようになって便利になるのです。

転置記号が入っているわずらわしさはありますが、これによって内積の計算をすこぶる単純にしてくれます。

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