行列の右上にアスタリスクがついていたら?

ある行列\(A\)に対し、\(A^*\)のように、行列\(A\)の右上に\(*\)が付く事があります。

これは、\(A\)の随伴行列を表しています。

ここでは、随伴行列について説明します。

場合によっては、\(A^*\)が共役行列を表す場合もあります。これについては最後に触れます。

随伴行列(ずいはんぎょうれつ)

ある行列\(A\)に対し、\(A^*\)は、

\(A=(a_{ij})\)とすると、

\(A^*=( \overline{a_{ji}}) \)

と表すことができます。

添え字の\(i,j\)の順序が逆になっていることを見逃さないでください、つまり転置しています。

バー記号\(\overline{ }\)は、複素共役を表す記号です。

まとめると、随伴行列は、各成分を複素共役にして転置した行列の事です。

複素共役とは、ある複素数の虚数部分の符号を変えた複素数の事です。
例えば、\(5-3i\)の複素共役は、\(5+3i\)となります。

随伴行列は、転置して各成分の複素共役をとる行列とも言えます。行列において転置する操作と、複素共役をとる操作は可換ですから、どちらの定義であっても結果的には同じ行列を定義することになります。

随伴行列の例

\[ A = \begin{pmatrix} 1+2i & 2 & 3 \\ 4+5i & -5i & 6-i \end{pmatrix} \]

とすると、
この行列\(A\)の随伴行列は、

\[ A^* = \begin{pmatrix} 1-2i & 4-5i \\ 2 & 5i \\ 3 & 6+i \end{pmatrix} \]

となります。

随伴行列\(A^*\)の読み方

\(A^*\)の読み方は、「エースター」、または、「エーアスタリスク(エーアステリクス)」と読むのが普通ですが、これにこだわらず、読みやすい読み方(呼び方)を使って問題ないです。

例えば、「エーホシ」でも、「エーノズイハン」でもよいというわけです。

それぞれ愛着のある呼び方をすればよいと思います。

ちなみに、私は、「エーアスタリスク」(略する時は「エーアスター」)と呼んでいます。

随伴行列の別名(英語)

随伴行列(adjugate matrix)は他にもいろいろな呼び方があります。

  • 共役転置行列(Conjugate transpose matrix)
  • 転置共役行列(Transpose conjugate matrix)
  • エルミート転置行列(Hermitian transposematrix)
  • エルミート共役行列(Hermitian conjugate matrix)
  • エルミート随伴行列(Hermitian adjoint matrix)

「エルミート」というのは、人の名前です。

例えば「エルミート転置」のように行列(matrix)部分などを省略して呼ぶこともありますが、「エルミート行列」と省略するのはやめてください。

通常エルミート行列とは、\(A=A^*\)の性質を持つ特別な行列\(A\)のことを指すからです。

\(A^*\)が共役行列を表す場合

流儀によって、\(A^*\)が共役行列の意味で使われることもあります。

この流儀では、随伴行列を\(A^†\)で表すことが多いです。

†記号は、ダガー記号(短剣記号)と呼ばれるものです。+(プラス記号)やt(転置記号)と似ているので注意が必要です。

数学では記号の定義がしっかりしていれば、どのような記号の使い方をしても問題にならないのですが、実際にはいろいろな慣習に基づいて記号は使われます。

よく使われるパターンを下記の表で示します。

通常は、大文字のアルファベットで行列を表します。

(数学系)流儀(物理系)流儀
行列\(A\)\(A\)
共役\(\overline{A}\)\(A^*\)
転置\({}^tA\)\({}^tA\)
随伴\(A^*\)\(A^†\)

転置行列ですが、\({}^tA\)以外にも、

  • \(A^t\)
  • \(A^T\)
  • \(A^⊤\)
  • \(A^\prime \)

などいろいろなバリエーションがあります。これらは、どちらの流儀でも使われます。

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