行列と行列式は全然違うもの

行列

行列と行列式は名前も似ているし、記号も似ていますが、まったくの別物です。

ただ、行列と行列式はすこぶる密接な関係があります。

ここでは、行列と行列式の違いなどについて記しています。

行列とは

行列とは、数を表のようなマス目に並べて書いたものです。

例をみたほうが早いのでいくつか行列の例を挙げます。

行列の例

行列の例1

これは、2行3列の行列の例です。

\[\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{pmatrix} \]

この例のように、行列は数を並べて書いて、括弧でくくります。

数と数の間は空白で区切り、カンマ「,」などで区切って書くことはしません。

数全体を括っている括弧の種類は、「」と「」を使うのが慣例ですが、「[」と「]」を使う場合もあります。

先ほどの例で説明すると、

\[ \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{bmatrix} \]

のような書き方がなされる場合もあるという事です。

ここで重要なのは、数が表の形に並べて書かれるということです。

表の形に並べて数を書きますから、行列には自然に行数、列数が定義されます。

先ほどの例は、2行の行列なので行数⁼は2,また列数は3となります。

特殊ですが、1行や1列の行列もあります。

そして1行1列の行列もあります。

行列の例2

これは、1行の行列の例です。

\[ \begin{pmatrix} 4 & 5 & 6 \end{pmatrix} \]

行列の例3

これは、1列の行列の例です。

\[ \begin{pmatrix} 7 \\ 8 \\ 9 \end{pmatrix} \]

きわめて特殊ですが、1行1列の行列というのもあります。

0行の行列、0列の行列というのはありません。そのような行列を定義できなくもないでしょうが、有効な使い道はないでしょう。

1行の行列を横ベクトル、1列の行列を縦ベクトルとも呼びます。

行列とベクトルは違うものと考えてる人がいるかもしれませんが、ベクトルは行列の特別なものと考えるのは極めて自然です。

行列は、ベクトルが並んでできていると見做す事も頻繁にあります。

行列を定義している数の事を、成分と呼びます。

成分は普通の数となっています。

ここでいう、普通の数とは、実数または複素数のことだと考えてください。

成分を作っている数の事をスカラーと呼ぶ事もあります。

1行1列の行列を普通の数と同一視することは可能ですが、1行1列の行列はあくまでも行列です。普通の数ではありませんから、厳密にいうと1行1列の行列と普通の数は同じではありません。ベクトルとスカラーほどの違いがあります。

行列と普通の数との違い

広い意味で、行列も数といえます。

なぜかというと、行列も普通の数のように計算ができるからです。

行列も普通の数のように加減乗除ができます。

ただ、普通の数とは少し違っている部分もあります。

たまたま成分が1個しかない行列も考えられますが、一般的に行列は複数の成分を持っています。

ここが普通の数と行列の最大の違いです。

行列式とは

行列式の定義は、結構面倒ですから、例で説明します。

念のために書いておきますが、\(A^2+2A-1\)のように、行列\(A\)を使って表した多項式の事も行列式と呼べますが、行列式がこの意味で使われることは皆無です。

行列式の例

2行2列の行列の行列式の例が単純な例となります。

2行2列の行列の行列式

行列  \[ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \] の行列式は、 \[ \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} \] でこれは、\(ad-bc\)と同じです。

行列式は、行列の括弧を縦線に置き換えて表現します。

見かけは行列と似ていますが、行列式は普通の数になります。つまり行列ではありません。

行列の成分を掛けたり足したりして計算した答えが行列式です。

もう少し具体的な例を挙げます。

行列式の例1

\[ \begin{vmatrix} 2 & 3 \\ 4 & 5 \end{vmatrix} \] は、\[2*5-3*4\]と計算されて\(-2\)となります。

2行2列の行列の場合は、\(ad-bc\)で計算できますから、比較的簡単に計算できます。

これが3行3列になるとすこし複雑になります。

行列式の例2

\( \begin{vmatrix} a & b & c \\ d & e & f \\ g & h & i \end{vmatrix}\)は、 \(aei+dhc+gfb-ceg-fha-idb\)で計算します。

3行3列の行列の行列式は、3つの成分を掛けたものを6組作って足したり引いたりして計算します。

なんとか手計算でも計算できますが、2行2列の場合に比べてかなりの計算量になります。

これが4行4列となると、4つの成分からできる積を24組つくって足したり引いたりします。

もはや、計算機なくしては計算する気にならないレベルです。

行列式は、正方行列(行数と列数が同じ行列)に定義されています。
2行3列の行列に対する行列式はないということですね。

行列式の計算は、はなはだ膨大な計算が必要になりますが、行列式は一見気が付かない様々な性質があり、その性質を駆使することで4行4列の行列であっても、計算できたりします。

例えば、成分にゼロが多い行列の行列式は簡単になります。

行列式の例3

\[ \begin{vmatrix} a & b & c & d\\ 0 & e & f & g \\ 0& 0 & h & i \\ 0 & 0 & 0 & j \end{vmatrix} =aehj\]

4行4列でも、左下側がゼロで埋め尽くされていると対角線上の成分の積だけで行列式が計算できます。

行列式のもう一つの書き方

行列式は、行列を縦線で囲って書く方法を示しました。

これは実際に行列式を数値計算するときによく使う記号です。

さて、行列\(A=\begin{pmatrix}a & b \\c & d\end{pmatrix}\)の行列式について考えてみます

縦線で行列式を書く方法では、\(|A|\)という書き方もできますが、

\[ \left| \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \right|\]

といった書き方はほとんどなされません。

行列式を英語でDeterminantといいますが、この英単語の頭の三文字をつかって、Aの行列式のことを、\(\det(A)\)と書く方法もよく見かけます。

例えば、\(|AB|=|A||B|\)という式は、\(\det(AB)=\det(A)\det(B)\)のように書くわけです。

\(\det(A)\)を、単に\(\det A\)と書くこともあります。

その時その時で、わかりやすい記号を使えばよいと思います。

私は、行列の成分を書く時には縦線の記号、成分を書かない場合には\(\det()\)の記号をよく使います。

縦線の記号は、絶対値を表す記号としてもよく使われます。\(A\)という行列に対して行列式の絶対値を表す場合、\(||A||\)だと混乱しそうですが、\(|\det(A)|\)だと区別しやすくなるメリットがあります。

行列と行列式の違いのまとめ

  • 行列は複数の成分から構成されるが、行列式は普通の数(スカラー)である。
  • 行数と列数が異なる行列もあるが、行列式は行数と列数が同じ行列で定義される。
  • 行列は丸括弧や鍵括弧で表記するが、行列式は縦線括弧で表記する。
  • 行列式は、\(\det( )\)の記号もよく使われる。

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