行列式を因数分解する問題とその解答例です。
行列式を因数分解するコツを知っていれば解ける問題です。
2変数4次の行列式の例
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\( \displaystyle D1= \begin{vmatrix}a & a & b & b\\ a & b & a & b\\ a & b & b & a\\ b & a & b & a\end{vmatrix} \)
解答例
それぞれの行について足すと、\((2a+2b)\)の因子がみつかりますので、2列目、3列目、4列目を1列目に足します。
\( \displaystyle D1= \begin{vmatrix} 2a+2b & a & b & b\\ 2a+2b & b & a & b\\ 2a+2b & b & b & a\\ 2a+2b & a & b & a\end{vmatrix} \)
\((2a+2b)\)でくくります。
\( \displaystyle D1=2 (a+b) \begin{vmatrix} 1 & a & b & b\\ 1 & b & a & b\\ 1 & b & b & a\\ 1 & a & b & a \end{vmatrix} \)
2行目、3行目、4行目のそれぞれに対し、1行目をひきます。
\( \displaystyle D1=2 (a+b) \begin{vmatrix} 1 & a & b & b\\ 0 & b-a & a-b & 0\\ 0 & b-a & 0 & a-b\\ 0 & 0 & 0 & a-b \end{vmatrix} \)
1列目で余因子展開します。
\( \displaystyle D1=2 (a+b) \begin{vmatrix} b-a & a-b & 0\\ b-a & 0 & a-b\\ 0 & 0 & a-b \end{vmatrix} \)
2行目から1行目を引きます。
\( \displaystyle D1=2 (a+b) \begin{vmatrix} b-a & a-b & 0\\ 0 & b-a & a-b\\ 0 & 0 & a-b \end{vmatrix} \)
三角行列になりました。対角成分を掛けて行列式を求めます。
\( \displaystyle D1=2 (a+b)(a-b)^3\)
これが答えです。
3変数3次の行列式の例(1)
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\(\displaystyle D2=\begin{pmatrix}2 a+b+c & b & c\\ a & a+2 b+c & c\\ a & b & a+b+2 c\end{pmatrix}\)
解答例
それぞれの行について足すと、\((2a+2b+2c)\)の因子がみつかりますので、2列目、3列目を1列目に足します。
\(\displaystyle D2=\begin{vmatrix} 2a+2b+2c & b & c\\ 2a+2b+2c & a+2 b+c & c\\ 2a+2b+2c & b & a+b+2 c \end{vmatrix}\)
\((2a+2b+2c)\)でくくります。
\(\displaystyle D2=2(a+b+c)\begin{vmatrix} 1 & b & c\\ 1 & a+2b+c & c\\ 1 & b & a+b+2c \end{vmatrix}\)
2行目、3行目から1行目を引きます。
\(\displaystyle D2=2(a+b+c)\begin{vmatrix} 1 & b & c\\ 0 & a+b+c & 0\\ 0 & 0 & a+b+c \end{vmatrix}\)
三角行列になりました。行列式展開して
\(\displaystyle D2=2(a+b+c)^3\)
これが答えです。
3変数3次の行列式の例(2)
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\(\displaystyle D3=\begin{vmatrix} {{\left( b+a\right) }^{2}} & {{b}^{2}} & {{a}^{2}}\\ {{b}^{2}} & {{\left( c+b\right) }^{2}} & {{c}^{2}}\\ {{a}^{2}} & {{c}^{2}} & {{\left( c+a\right) }^{2}} \end{vmatrix}\)
解答例
もし、この問題がテストにでたら最悪です。
行操作、列操作してもちっとも因子がでてくる気配はないです。
サラスの公式や、余因子展開でひたすら展開してから因数分解してください。
手計算でもなんとかできる範囲です。
これは研究用にはよい問題ですが、テストのように決められた時間内で素早く解くには不向きです。へたに行操作、列操作しても複雑になるだけで時間のロスが大きすぎます。
まあ、一般的に行列式が因数分解できることは稀です。この問題は因数分解できそうにないのにできてしまうという意味では面白い問題です。
答えは下記の式になります。
\(\displaystyle D3=2\left( b c+a c+a b\right)^3 \)
3変数4次の行列式の例(1)
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\(\displaystyle D4= \begin{vmatrix} 0 & 1 & 1 & 1\\ 1 & 0 & {{a}^{2}} & {{b}^{2}}\\ 1 & {{a}^{2}} & 0 & {{c}^{2}}\\ 1 & {{b}^{2}} & {{c}^{2}} & 0\end{vmatrix} \)
解答例
行操作で1列目の1を消します。
3行目、4行目から2行目を引きます。
\(\displaystyle D4= \begin{vmatrix} 0 & 1 & 1 & 1\\ 1 & 0 & {{a}^{2}} & {{b}^{2}}\\ 0 & {{a}^{2}} & -a^2 & {{c}^{2}}-b^2\\ 0 & {{b}^{2}} & {{c}^{2}}-a^2 & -b^2\end{vmatrix} \)
1列目で余因子展開します。
符号に注意してください。
\(\displaystyle D4=- \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1\\ {{a}^{2}} & -a^2 & {{c}^{2}}-b^2\\ {{b}^{2}} & {{c}^{2}}-a^2 & -b^2\end{vmatrix} \)
1行目の1を消すために、2列目、3列目から1列目を引きます。
\(\displaystyle D4=- \begin{vmatrix} 1 & 0 & 0\\ {{a}^{2}} & -2a^2 & {{c}^{2}}-b^2-{{a}^{2}}\\ {{b}^{2}} & {{c}^{2}}-a^2-{{b}^{2}} & -2b^2\end{vmatrix} \)
1行目で余因子展開します。
\(\displaystyle D4=- \begin{vmatrix} -2a^2 & {{c}^{2}}-b^2-{{a}^{2}}\\ {{c}^{2}}-a^2-{{b}^{2}} & -2b^2\end{vmatrix} \)
展開します。
\(\displaystyle D4=-(4(ab)^2-(c^2-b^2-a^2)^2)\)
平方の差になっていますので、因数分解できます。
\(\displaystyle D4=(c^2-b^2-a^2)^2-(2ab)^2\) \(\displaystyle D4=(c^2-b^2-a^2+2ab)(c^2-b^2-a^2-2ab)\)
さらに因数分解できます。
\(\displaystyle D4=(c^2-(b-a)^2)((c^2-(b+a)^2)\)
\(\displaystyle D4=(c+(b-a))(c-(b-a))((c+(b+a))((c-(b+a))\)
\(\displaystyle D4=(c+b-a)(c-b+a)(c+b+a)(c-b-a)\)
これが答えです。
途中で共通因子がでてこなかったのですが、うまい具合に平方の差になってくれてたので因数分解できました。
3変数4次の行列式の例(2)
問題
次の行列式を因数分解せよ
\(\displaystyle D5= \begin{vmatrix}0 & a & b & c\\ a & 0 & c & b\\ b & c & 0 & a\\ c & b & a & 0\end{vmatrix} \)
解答例
それぞれの行について総和をもとめると、共通因子\((a+b+c)\)がみつかります。
2列目、3列目、4列目を1列目に足します。
\(\displaystyle D5= \begin{vmatrix} a+b+c & a & b & c\\ a+b+c & 0 & c & b\\ a+b+c & c & 0 & a\\ a+b+c & b & a & 0\end{vmatrix} \)
共通因子\((a+b+c)\)でくくります。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)\begin{vmatrix} 1 & a & b & c\\ 1 & 0 & c & b\\ 1 & c & 0 & a\\ 1 & b & a & 0\end{vmatrix} \)
2行目、3行目、4行目から1行目を引きます。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)\begin{vmatrix} 1 & a & b & c\\ 0 & -a & c-b & b-c\\ 0 & c-a & -b & a-c\\ 0 & b-a & a-b & -c\end{vmatrix} \)
1列目で余因子展開します。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)\begin{vmatrix} -a & c-b & b-c\\ c-a & -b & a-c\\ b-a & a-b & -c\end{vmatrix} \)
余因子展開する前にできるだけ0を作り展開しやすくします。
3列目を2列目に足します。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)\begin{vmatrix} -a & 0 & b-c\\ c-a & a-c-b & a-c\\ b-a & a-b-c & -c\end{vmatrix} \)
2行目から3行目を引きます。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)\begin{vmatrix} -a & 0 & b-c\\ c -b& 0 & a\\ b-a & a-b-c & -c\end{vmatrix} \)
うまく2列目が0になりました。2列目で余因子展開します。符号に注意してください。マイナスが先頭についています。
\(\displaystyle D5= -(a+b+c)(a-b-c)\begin{vmatrix} -a & b-c\\ c -b & a \end{vmatrix} \)
計算しやすいように、符号調整しました。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)(a-b-c)\begin{vmatrix} a & c-b\\ c -b & a \end{vmatrix} \)
2次の行列式は、平方の差の形になっているので因数分解できます。
\(\displaystyle D5= (a+b+c)(a-b-c)(a-c+b)(a+c-b) \)
これが答えです。
別解
この問題は、
\(\displaystyle A=\begin{vmatrix}0&a\\a&0\end{vmatrix}\)
\(\displaystyle B=\begin{vmatrix}b&c\\c&b\end{vmatrix}\)
とおくと、
\(\displaystyle D5=\begin{vmatrix}A&B\\B&A\end{vmatrix}\)
の形になっています。
この形の行列式は、公式があって、
\(\displaystyle D5=\begin{vmatrix}A+B\end{vmatrix}\begin{vmatrix}A-B\end{vmatrix}\)
となります。
この公式を使って解くこともできます。
4変数4次の行列式の例(1)
問題
次の行列式を因数分解せよ
\(\displaystyle D6= \begin{vmatrix}a & b & c & d\\ b & a & c & d\\ b & c & a & d\\ b & c & d & a\end{vmatrix} \)
解答例
それずれの行の総和が\((a+b+c+d)\)となりますので、
2列目、3列目、4列目を1列目に足して共通因子\((a+b+c+d)\)でくくります。
\(\displaystyle D6=(a+b+c+d) \begin{vmatrix}1 & b & c & d\\ 1 & a & c & d\\ 1 & c & a & d\\ 1 & c & d & a\end{vmatrix} \)
1列目で余因子展開しやすいように、2行目、3行目、4行目から1行目を引きます。
\(\displaystyle D6=(a+b+c+d) \begin{vmatrix} 1 & b & c & d\\ 0 & a-b & 0 & 0\\ 0 & c-b & a-c & 0\\ 0 & c-b & d-c & a-d\end{vmatrix} \)
1列目で余因子展開します。
\(\displaystyle D6=(a+b+c+d) \begin{vmatrix} a-b & 0 & 0\\ c-b & a-c & 0\\ c-b & d-c & a-d\end{vmatrix} \)
三角行列になってくれました。
展開します。
\(\displaystyle D6=(a+b+c+d)(a-b)(a-c)(a-d)\)
これが答えです。
4変数4次の行列式の例(2)
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\(\displaystyle D7= \begin{vmatrix} a & b & c & d\\ b & b & c & d\\ c & c & c & d\\ d & d & d & d\end{vmatrix} \)
解答例
\(a,b,c,d\)が取り囲むように配置されています。
4列目の\(d\)を消します。
2行目、3行目、4行目から1行目を引きます。
\(\displaystyle D7= \begin{vmatrix} a & b & c & d\\ b-a & 0 & 0 & 0\\ c-a & c-b & 0 & 0\\ d-a & d-b & d-c & 0\end{vmatrix} \)
4列目で余因子展開します。
\(\displaystyle D7=-d \begin{vmatrix} b-a & 0 & 0 \\ c-a & c-b & 0 \\ d-a & d-b & d-c \end{vmatrix} \)
三角行列になりました。
展開します。ついでに符号調整もします。
\(\displaystyle D7=d(a-b)(b-c)(d-c)\)
これが答えです。
4変数4次の行列式の例(3)
問題
次の行列式を因数分解せよ。
\(\displaystyle D8= \begin{vmatrix}a & b & c & d\\ -b & a & -d & c\\ -c & d & a & -b\\ -d & -c & b & a\end{vmatrix}\)
まともにやると、結構面倒な計算になると思いますが、実は転置行列を使うとあっという間に因数分解できてしまいます。
最後の練習問題として考えてみてください。