行列を学び始めて最初にぶつかる難関は、逆行列です。この逆行列に関する問題は行列をやり続ける限りいつまでも続きます。
かといって、単に逆行列を難しいものとして放棄するのはもったいない話です。というのも、逆行列を調べれば調べるほど行列の性質が見えてくるからです。
逆行列とは
逆行列とは簡単にいうと、行列の積に関する逆元の事です。
普通の数の掛け算の逆数(逆元)に相当します。
普通の数である2の逆数は、1/2です。
1/2は2に掛けると1(単位元)になるので2の逆数と呼んでいます。
これと同じように、かけると単位行列になる行列の事を逆行列と呼びます。
ある行列Aになんらかの行列を掛けると単位行列(対角線がすべて1でそれ以外は0となっている行列)になる行列があれば、その行列の事をAの逆行列といいます。
普通の数の場合は、分母と分子をひっくり返すことで普通の数では簡単に逆数を作ることができますが、行列の場合そう簡単にはいきません。
そもそも普通の数であっても、逆数を計算する(標準形式で表す)にはある程度の知識が必要です。
例えば、\(2-\sqrt{3}\)や、\(1+3i\)の逆数は、\(\displaystyle \frac{1}{2-\sqrt{3}}、\frac{1}{1+3i}\)と書くことができますが、これらが\(\displaystyle 2+\sqrt{3}、 \frac{1}{10}-\frac{3}{10}i \)と同じ数である事を示すには、ある程度の知識を要します。
普通の数に関しては、分数という記法で形式的にではありますが簡単に逆数を書き表すことができます。
しかし、行列の場合は分数の形で行列を書くことができないのです。
例を挙げると、\(\begin{pmatrix}1 & 2 \\ 4 & 5 \end{pmatrix} \)といった行列の逆行列を
\[\frac{1}{\begin{pmatrix}1 & 2 \\ 4 & 5 \end{pmatrix}}\]と分数の形で書くことは許されていません。
詳しい理由はここで書きませんが、行列の積は交換の法則をみたさないため、分数形式で行列を書く事ができないのです。当然、約分などという概念も行列にはありません。
逆行列の記法
Mという行列があったとします。
\(M\)の逆行列は、(存在するならば)\(M^{-1}\)と書かれます。
指数部分に\(-1\)を付けることで逆行列を表ます。
このあたりは、普通の数と同じ扱いになります。
ただし、\(\displaystyle \frac{1}{M}\)といった書き方はできませんし、ありません。
逆行列の心得(逆行列は簡単には求まらない)
逆行列を求める方法はいくつかありますが、結論を言うとどれもそう簡単ではありません。
簡単にというのは、分数の計算のように簡単にはできないということです。
そもそも、逆行列がない行列もあります。逆行列があるのかないのか、その判定だけでもかなりの計算が必要になってきます。
何かの公式・定理を駆使するとある程度のところまで簡単になりますが、それでも実用的にはかなりの計算をする必要があります。
「逆行列が簡単に求められたら・・・」と思うシーンは多々あるのですが、逆行列は2次程度が手計算で求められる範囲であって、3次、4次の段階ですでにコンピュータにでも頼らないと手が付けられない煩雑な計算となっています。
逆行列の求め方
2次までは公式を使い、3次以上は掃き出し法と呼ばれる手法が最も簡単な方法といえます。
3次に関しては、余因子を使った公式を知っていればその方が簡単とも言えます。
2次の行列の逆行列
2行2列の行列の場合、逆行列は下記の公式で求めることができます。
この公式は丸暗記するに値する公式です。