行列式を因数分解する時のコツ

行列式を習うと、演習で行列式を因数分解するという問題がでてきます。

行列式を使いこなすのに行列式の因数分解はとっても有効です。ただ行列式を求める問題はつまらないですが、因数分解するとなると、行列式の特徴の見極め方が養われます。

ここでは、よくある代表的な行列式を因数分解します。

行列式を因数分解するための予備知識

因数分解する時にマスターしておくべき知識を簡単に書きます。最低限これだけは知っておくべき内容です。

  • 行列式の定義
  • 因数定理
  • 行列式の基本性質(列(行)操作)
    • 2つの列(行)が同じ行列式は0と等しい
    • ある列(行)の定数倍を別の列(行)に加えても行列式は変わらない
    • ある列(行)の共通因子は括りだせる
  • 行列式の余因子展開

行列式の計算で駆使するのは、上記の性質です。

もちろん、問題によっては、他の性質を使ってエレガントに計算できることもあるでしょうが、上記を使う方法が王道です。

逆に言うと、上記の性質で行列式の因数分解の問題は殆ど解けます。

a^3+b^3+c^3-3abcの因数分解

有名な因数分解の問題です。

下記の\(D1\)を因数分解せよ。

\(\displaystyle D1=\begin{vmatrix}a & b & c \\ c & a & b \\ b & c & a \end{vmatrix}\)

そのまま展開すると、\(\displaystyle D1=a^3+b^3+c^3-3abc\)

となります。もちろん、この方法でも解けますが、ここでは行列式の性質を使って解きます。

1列目に他の列をすべて足す

各行(列でもいいです)を足すと、一定の値になりますね。この場合は、1列目に他の列の値を全部足します。このパターンが見つかると行列式の因子が見つかったのも同然ですので、一機にテンションがあがります。

\(\displaystyle D1=\begin{vmatrix} a+b+c & b & c \\ a+b+c&a&b\\ a+b+c&c&a\end{vmatrix}\)

1列目に共通因子\(a+b+c\)がでてきましたので、行列式の外にだします。

\(\displaystyle D1=(a+b+c)\begin{vmatrix} 1& b & c \\ 1&a&b\\ 1&c&a\end{vmatrix}\)

余因子展開する

列(行)の足し算でこれ以上共通因子が見つかりそうになければ、余因子展開で次数を下げます。

ここでは、1列目を余因子展開します。

\(\displaystyle D1=(a+b+c) \left(\begin{vmatrix}a&b\\c&a\end{vmatrix}-\begin{vmatrix}b&c\\c&a\end{vmatrix}+\begin{vmatrix}b&c\\a&b\end{vmatrix}\right)\)

2次の行列式は公式で計算します。

\(\displaystyle D1=(a+b+c)(a^2-bc-ba+c^2+b^2-ca)\)

これで因数分解のできあがりです。

式の形を整えると

\(\displaystyle D1=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)\)

行操作による別解

上記では、いきなり余因子展開を使いましたが、その前に行操作を行って、0成分を作っておく手もあります。

\(\displaystyle \begin{vmatrix} 1& b & c \\ 1&a&b\\ 1&c&a\end{vmatrix}\)

2行目を1行目で引き、3行目を1行目で引きます。

\(\displaystyle =\begin{vmatrix} 1& b & c \\ 0&a-b&b-c\\ 1&c-b&a-c\end{vmatrix}\)

この状態で1列目を余因子展開して解くこともできます。

行列式の因数分解の例(1)

問題

次の式の行列式を因数分解せよ

\( \displaystyle D2= \begin{vmatrix} a+b & b & b \\ b & a+b & b \\ b & b & a+b \end{vmatrix} \)

解答例

2列目、3列目を1列目に足します。

\( \displaystyle D2= \begin{vmatrix} a+3b & b & b \\ a+3b & a+b & b \\ a+3b & b & a+b \end{vmatrix} \)

\((a+3b)\)でくくります。

\( \displaystyle D2=(a+3b) \begin{vmatrix}1 & b & b \\1 & a+b & b \\1 & b & a+b\end{vmatrix}\)

2行目、3行目から1行目をひきます。

\( \displaystyle D2=(a+3b)\begin{vmatrix} 1 & b & b \\ 0 & a &0 \\ 0 & 0 & a \end{vmatrix}\)

三角行列の行列式なので対角線上の積が行列式になります。

\( \displaystyle D2=(a+3b)a^2\)

これが答えです。

行列式の因数分解の例(2)

問題

次の行列式を因数分解せよ

\( \displaystyle D3= \begin{vmatrix} 1 & a &a^3 \\ 1 & b & b^3 \\ 1 & c & c^3 \end{vmatrix} \)

解答例

\(b=a\)とするとこの行列式は0になるので、\((b-a)\)を因数に持つことがわかります。

同様にして、\((b-c)\)、\((c-a)\)などの因数があることも念頭に置いておきます。

その因数を狙って、2行目から1行目、3行目から1行目をひきます。

\( \displaystyle D3= \begin{vmatrix} 1 &a & a^3 \\ 0 & b-a & b^3-a^3 \\ 0 & c-a & c^3-a^3 \end{vmatrix} \)

成分を因数分解します。

\( \displaystyle D3= \begin{vmatrix} 1 &a & a^3 \\ 0 & b-a & (b-a)(b^2+ab+a^2) \\ 0 & c-a & (c-a)(c^2+ac+a^2) \end{vmatrix} \)

2行目から因数\((b-a)\) 3行目から因数(\(c-a)\)

が得られました。

\( \displaystyle D3= (b-a)(c-a)\begin{vmatrix} 1 &a & a^3 \\ 0 & 1 & b^2+ab+a^2 \\ 0 & 1 & c^2+ac+a^2 \end{vmatrix} \)

3行目から2行目をひきます。

\( \displaystyle D3= (b-a)(c-a)\begin{vmatrix} 1 &a & a^3 \\ 0 & 1 & b^2+ab+a^2 \\ 0 & 0 & c^2+ac-b^2-ab \end{vmatrix} \)

三角行列になったので、対角成分を掛けて行列式を求めます。

\( \displaystyle D3= (b-a)(c-a)(c^2-b^2+ac-ab)\)

まだ因数分解できます。

\( \displaystyle D3= (b-a)(c-a)(c-b)(c+b+a))\)

これが答えです。

最後の因数分解は、最初の因数定理から考察した因数の事を思い出すとやり忘れを防止できます。

対称形な行列式の場合は、因数分解しても対称形を維持するので、式のバランスを考えると間違い防止になります。

先ほどの答えは、abcの順が逆になっていますので、正順に並べ替えて

\( \displaystyle D3= (a+b+c)(a-b)(b-c)(c-a)\)

のほうが見やすいかもしれません。

行列式の因数分解の例(3)

問題

次の行列式を因数分解せよ

\( \displaystyle D4= \begin{vmatrix} a+1 & 1 & 1 \\ 1 & a+1 & 1 \\ 1 & 1 & a+1 \end{vmatrix} \)

解答例

横に足すとどの行も\((a+3)\)になります。そこで、2列目と3列目を1列目に足します。

\( \displaystyle D4= \begin{vmatrix} a+3 & 1 & 1 \\ a+3 & a+1 & 1 \\ a+3 & 1 & a+1 \end{vmatrix} \)

共通因子\((a+3)\)で括ります。

\( \displaystyle D4= (a+3)\begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a+1 & 1 \\ 1 & 1 & a+1 \end{vmatrix} \)

余因子展開する前にゼロを作っておきます。

2列目から1列目を引き、3列目から1列目を引きます。

\( \displaystyle D4= (a+3)\begin{vmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 1 & a & 0 \\ 1 & 0 & a \end{vmatrix} \)

余因子展開するまでもなく三角行列になりました。

\( \displaystyle D4= (a+3)a^2\)

これが答えです。

補足

答えの式は項が2つしかありません。

実は、この行列式は展開すると、いろいろ項がまとまるということです。

変数が1つなので項がまとまりやすいのでしょう。

ということは、普通に行列式を展開してから因数分解しても解ける問題です。

因数分解の問題というよりは、行列式の展開の方に主眼が置かれた問題でした。

なお、この例題の解き方を知っていると、

\( \displaystyle \begin{vmatrix} a+1 & 1 & 1 &1 \\ 1 & a+1 & 1 &1 \\ 1 & 1 & a+1 &1 \\ 1 & 1 & 1 & a+1\end{vmatrix} \)

のような行列式の展開も容易にできます。

行列式を因数分解するときのまとめ

行列式を因数分解する王道のやり方は、

  1. 列操作、行操作をして共通因子を作る。
  2. 共通因子でくくる。
  3. 列操作、行操作で0成分の多い列や行を作る。
  4. 0成分が多い列や行で余因子展開する。

を繰り返すことです。

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