無限大には少なくとも2種類の意味があります。これらの意味は混同されがちで、その結果誤った推論をしてしまうことも少なくありません。
ここでは、2種類の無限大を「∞」と「ω」の記号で使い分けます。どちらも無限大と呼ばれますが明確に区別されます。
「∞」と「ω」の違い
まずは、簡単に「∞」と「ω」の違いを簡単に示しておきます。
「∞」として表す無限大(絶対無限)
「∞」は一般的に無限大と呼ばれますが、「ω」と区別する場合には、絶対無限と呼びます。
これは、あらゆる数より大きい存在を示します。
比較のみが許されているので、数ではありません。というのは演算がないからです。
したがって、∞を等式で使うことはありません。不等式でのみ意味があります。
\(\displaystyle ∞+1,∞+∞,∞^2\)のような式は意味がなく、ただのイメージ式です。もしくは、後で示す「ω」の意味として「∞」の記号を流用した式です。このように、「ω」と「∞」は区別されずに使用されることがほとんどです。
負の無限大を「-∞」と表すことがあります。これは、「∞」に「-1」を掛けたような形になっていますが、それはあくまでも便宜的であって、「∞」に数を演算することはできません(通常は定義されていません)。負の無限大は、あらゆる数より小さい存在です。
「ω」として表す無限大(非アルキメデス的な数)
「ω」も無限大と呼ばれますが、こちらは代数的です。すなわち、加減乗除のできる体(順序体)の中に存在している「数」です。非アルキメデス的というのは、すべての自然数より大きいという意味と同じです。
したがって、「ω+1」,「ω+ω」や「ω×ω」も意味を持ちます。
ωが無限大だとすると「ω+1」も無限大(すなわち非アルキメデス的)になり、
\(ω<ω+1\)のような関係式も意味がありますし、
\(x^2-ω^2=0\)のような等式にも意味付けする事ができます。
「ω」はすべての自然数より大きな存在ですが、その「ω」よりさらに大きな存在がないというわけではありません。「ω」より大きな数を考えることは可能です。また「∞」が数として扱えないのとは対称的に「ω」は数として扱うことができます。
∞はあらゆる数より大きい存在ですから、「ω<∞」という不等式には意味がありますが、「ω=∞」という等式は不毛です。
無限大の考察
∞とωの違いがわかったところで、無限大についての考察をします。
∞とωが区別されずに混乱していることがよくわかるようにです。
二つの数列\(a_n\)と\(b_n\)を考えます。
\(a_n=n^3\)
\(b_n=n^2\)
としましょう。
この二つの数列は無限大に発散するので、
\(a_n→∞、b_n→∞ (n→∞)\)として表します。
それでは、この数列の比でできた\(c_n\)を考えます。
\(\displaystyle c_n=\frac{a_n}{b_n}\)
この数列も発散しますね。
すなわち、\(c_n→∞\)です。
この事から、\(a_n\)は\(b_n\)より大きな無限大に発散していると考えないでしょうか。
無限大にもいろんな大きさがあって、\(a_n\)のほうが\(b_n\)より大きい無限大に近づいていると考えるのは、錯覚です。
この考えは間違いですが、なぜそのような間違いに陥ったのかというと、数列の極限を極限の演算で考えてしまったためです。
\(\displaystyle \frac{a_n}{b_n}=\frac{∞^3}{∞^2}=∞\)のような式が頭をよぎってるのです。
最初に、∞は演算ができませんと書いたように、絶対無限は割り算することができません。
しかし、このような二つの数列からできた数列の極限を求めるときには、それぞれの数列の極限を演算することで極限を求めることができます。
このような考え方は、発散する数列の極限をωとおいて、その極限通しの演算から極限を導いています。
ωは(定義する必要がありますが)演算可能な無限大です。したがって、うまく\(ω\)を定義できれは、このような極限を求める操作が正当化され、いろいろな数列の極限が発散も含めて代数的に求めることができるようになるはずです。
私達は、無限大をある時は絶対無限として∞として考えながら、あるときはωとして演算する事を考えます。通常の極限問題では、両者を区別しなくてもそれほど問題はないと思います。
しかし、無限大について数学的に追及していくろ、両者の区別は必要になってきます。特に代数的に無限大を捕えようとすると、かならずこの問題にぶち当たるはずです。
超実数での無限大
超実数では無限大を含んだ数が定義されますが、それらは演算ができるのでそこで考えられている無限大はωに相当するものです。
無限大の捉え方
関数\(\displaystyle \frac{1}{x}\)を考えます。
簡単のため、\(0<x\)とします。
この関数は、\(x→∞\)とすると\(0\)に近づいていきます。
したがって、イメージ式として\(\displaystyle \frac{1}{∞}=0\)と書けます。
また、\(x=0\)ではこの関数は定義されていませんが、\(x\)が\(0\)に近づくと関数の値はどんどん大きくなっていきます。
したがって、イメージ式として\(\displaystyle \frac{1}{0}=∞\)と書けます。
ですから、無限大は0の逆元として考えられがちですが、0の逆元を考えるといろいろな不都合(1=2など)が生じます。また、0の逆元を考えたとしてそれが正なのか負なのかを決める困難もあります。
開区間(-∞,∞)を開区間(-1,1)に大小関係を保存しながら対応させることができます。
たとえば、
\(\displaystyle x \mapsto \frac{x}{|x|+1}\)
という対応でしれが実現できます。
この対応で、「∞」は「1」に対応します。
それでは、「ω」はどこに対応するのでしょうか。「ω」も「1」も対応すると考えることはできるでしょうか。
「ω」と「∞」を混同していると、「ω」も「1」に対応していると考えてしまいがちですが、「ω」と「∞」を区別している場合には、
\(\displaystyle ω \mapsto \frac{ω}{ω+1}\)
と考えるのが合理的です(すなわち「ω」は1に対応することなく、1よりわずかに小さいところに対応すると考える方が合理的です。)。
「∞」と「ω」を区別するとスッキリしますね。