メガ実数入門

無限大を含む素朴な実数体メガ実数についての入門記事です。

この記事では、メガ実数体の生い立ちを説明しています。

数の拡張

私達が通常使っている数は、自然数、整数、分数(有理数)、実数と数の概念を拡張してきました。

そして、実数を複素数へと拡張して、数の拡張が一段落します。

ここでいう数の拡張とは、既存の数の性質を維持しながらよりたくさんの数を表すことができるよう、数の範囲を広げていくことを指しています。

実数の拡張は複素数と考えがちですが、実は実数には別の角度で拡張する余地があります。それは無限大の概念を含んだ数の体系です。

実数に無限大の要素を追加した数の体系で有名なのは、超実数と超現実数があります。

しかし、いずれも計算がしずらいという欠点があり、取り扱いしずらいのです。

微分や積分などで極限の計算をするとき、あたかも∞の記号を数のように扱って計算した覚えがないでしょうか。∞は数ではないのですが、ある制約の下では数のように取り扱うことができ、実際極限の計算で用いられています。

∞は数ではありませんが、数のような数の性質も持ち合わせています。

ということは、∞を含んだ数の体系が、今のところはぼんやりとしか認知できてないにしても、存在していると考えてよいのではないでしょうか。

それを正当化しようとした素朴なアプローチがメガ実数です。

メガ実数

メガ実数の発想は単純です。

あらゆる実数より大きい数が少なくとも一つ存在していると仮定しそれをωします。もしくは、あらゆる正の実数より小さい正の数(いわゆる無限小)が少なくとも一つ存在していると仮定しそれをεとする考え方もあります。

εの場合は、数の符号も考える必要がでてくるので、ここではωを元に数を構築することにします。

1や2が存在するのと同様に、ωが存在すると考えます。これは公理です。このωの事を無限大単位と呼ぶことにします。あらゆる無限大の基準になるからです。

ωはいわゆる無限大(の中の一つ)ですが、ここでは数の体系をつくるために、ωが存在したと仮定して、ωを含んだ実数の拡張を考えます。

数の体系をつくるためには、四則演算と比較演算ができるようにしなければなりません。

形式的な定義はたいくつなので、結論だけを書いていきます。

実数aとωの加法は、a+ωのように一時結合の形で表します。

実数aとωの積は、aωのようにaを係数としたoωの項として表します。

特に、実数-1とωの積は、-ωと表し、これはωの加法の逆元となります。

ωとωの積は、ωωとなりますが、これはω2と表します。

すなわち、実数全体とωから生成される多項式全体によって単位元をもつ可換環ができます。

これを多項式環と同じ記号を用いてR[ω]と書き表します。

これは、実数を係数とする多項式環にほかなりません。ただ、ωは変数ではありません。数と考えます。

ただ、メガ実数はさらにこの多項式環を膨らませます。すなわし、通常の多項式環の場合、ωの指数部分は0もしくは自然数に限定されますが、メガ実数では指数部分は実数もゆるします。

\(\displaystyle R[ω]=\left\{ \sum_{i=0}^n a_i ω^{e_i} \Big| a_i,e_i \in \mathbb{R} \right\}\)

指数部分を実数まで拡張するのは、べき根の概念をメガ実数でも使用できるようにするためです。

さらに、この環の商体を作って、それを\(R(ω)\)と書き表します。

この\(R(ω)\)をメガ有理数体、その元をメガ有理数と呼びます。

\(R[ω]\)は(ωを無限大単位とした)メガ整数環と呼び、その元の事をメガ整数と呼びます。

メガ整数の符号は、メガ整数の最高次の項の係数の符号で定義します。

二つのメガ整数αとβがあったとき、α-βが正の場合、α>βと定義すれば、メガ整数環は全順序集合となり、これはメガ有理数体に拡張することが可能です。

すなわち、メガ有理数体は実数を含んだ全順序集合です。

また、二つのメガ有理数の差の絶対値を考えることで距離位相も定義できます。

有理数から実数を構成したやり方で、メガ有理数体からメガ実数体を構成します。

すなわり、メガ有理数からなるコーシー数列をもとに、メガ実数が定義できます。

メガ有理数体は、レヴィ=チヴィタ体の部分体です。

レヴィ=チヴィタ体との違いは、レヴィ=チヴィタ体の元が(高々加算の)無限の項を持つのに対し、メガ有理数(メガ整数)は有限個の項しかもちません。

メガ実数の特徴

メガ実数の最大の特徴は、非アルキメデス的であることです。

ここが通常の実数と異なる最大の部分となります。

メガ実数は、無限大と無限小の元を含みます。

メガ実数の指数部分は実数となります。指数部分を整数、もしくは有理数に制限した体系も考えられますが、指数部分が離散的であると解析的な手法が適用しずらくなるため指数は実数フルに拡張しています。

メガ実数とレヴィ=チヴィタ体との違いは、メガ有理数が有限個の項の一次結合としているところです。レヴィ=チヴィタ体の元は、無限個の項の和を取り扱いますが、メガ実数は基本的に有限項の項からなるメガ有理数に帰着して考えます。

メガ実数は実数と無限大単位をつかって構成されます。同様に、メガ実数と第2の無限大単位ω2を使うことでさらなるメガ実数を定義することができます。これは元のメガ実数と区別するために、ギガ実数と呼びます。このように、メガ実数は、第2、第3の無限大単位を使うことでギガ実数、テラ実数といくらでも拡大することができます。

メガ実数は、実数に無限大単位を追加した数の体系ですが、同じやり方で無限小単位を使って生成されるメガ実数を考えることができます。これは、無限大単位と無限小単位の違いは大きさです。

メガ数直線

メガ実数は全順序集合ですから、数直線の点に対応つけることができます。その数直線をメガ数直線と呼びます。

ただし、通常の数直線と違い、無限大や無限小の点も表す必要がありますので、メガ数直線には拡大鏡と顕微鏡機能が備わっています。すなわち、メガ数直線は伸縮自在な数直線です。メガ数直線をω倍に縮小することでωの位置が1の位置に対応付けられます。

逆に、ω倍に拡大することで、通常の実数の近傍に無数のメガ実数が集積していることが観察できます。例えば、実数3の点をω倍に拡大した数直線では、原点が実数の3であって、3+εがメガ数直線1の部分に対応することになります。

メガ数直線のメモリは対数メモリのように、指数部分を基準にとることもあります。これは、目が数直線をつかってグラフを描画するときに便利です。

例えば、\(y=x^2\)のグラフを定義域を無限大まで拡張して描こうとすると、すぐにグラフからはみ出してしまいます。メモリを対数グラフのようにすると、グラフの全体がイメージしやすい形で表現できます。

\(Y=\log{y},X=\log{x}\)とおくと、\(y=x^2\)は\(Y=2X\)のように変換されます。ただしこれはlogの変換制約から、正の範囲だけの描画になっていることに注意すべきです。メガ数直線を使う場合には、広い範囲を取り扱えますが、いろいろと注意点が発生しますので、都度どこが拡大されているのか、縮小されているのか確認する必要がでてきます。

あくまでもこれは例です。メガ実数のlogがあるかのように記載しているので検証の余地は多いにありますが、このようにメガ数直線をつかってメガ実数を定義域、値域にしたグラフを書くことができます。

メガ複素数

メガ実数に虚数単位を追加してメガ複素数を定義する事ができます。

メガ実数は解析的な目的で使用されますが、代数的な考察を行う場合にはメガ複素数の中でメガ実数を考えると見通しがよくなります。

実数で考えている概念のほとんどはメガ実数でも考察できます。したがって、メガベクトル、メガ行列、メガ方程式など、実数が使われているところはメガ実数でも考えることができます。

メガ実数と実数の決定的な違いはアルキメデス的であるかどうかです。アルキメデス的を前提とした命題に関してはメガ実数の類似が適用できません。

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