レヴィチヴィタ体上の関数の例を用いて、微積分について記します。
レヴィ・チヴィッタ体は、実数体Rと同じような条件であっても、期待と違った結果になることがあります。
微分
微分の簡単な例を示します。
関数\(f(x)=x^2-2x\)を考えます。
\(f\)は\(\mathbb{R}\)で微分可能で\(f'(x)=2x-2\)です。
それは、微分商から得られます。
\(\displaystyle \frac{f(x+Δx)-f(x)}{Δx}\)
無限少量であるdが使用可能であるので、Δxとしてdを使うと
\(\displaystyle \frac{f(x+d)-f(x)}{d}=\frac{x^2+2xd+d^2-2x-2d}{d}=2x-2+d\)
微分商の実数部分によって、通常の実関数\(f:\mathbb{R}→\mathbb{R}\)の実導関数が得られます。
位相、収束とコーシー完備
絶対値\(\mathcal{R}\)上の絶対値
\(x \in \mathcal{R}\)とする。
\(|x|=\begin{cases} x & 0≦x の場合 \\ -x & x<0 の場合 \end{cases}\)
で絶対値を定義する。
\(M\)を\(\mathcal{R}\)の部分集合とする。
任意の\(x_0 \in M\)に対し、
\(O(x_0,ε)\)が\(M\)の部分集合となるように、
\(0<ε \in \mathcal{R}\)が存在するとき、Mを開集合と言う。
\(O(x_0,ε)=\{x \in M|\ |x-x_0|<ε\}\)
\(x \in \mathcal{R}\)とする。
\(\displaystyle ||x||_{r}=\sup_{q≦r}\{ |x[q]| \}\)
で半ノルム\(|| \cdot ||_r\)を定義する。
\(M\)を\(\mathcal{R}\)の部分集合とする。
任意の\(x_0 \in M\)に対し、
\(S(x_0,ε)\)が\(M\)の部分集合となるように、
実数\(0<ε \in \mathbb{R}\)が存在するとき、Mを半ノルムによる開集合と言う。
\(S(x_0,ε)=\{x \in M|\ ||x-x_0||_{1/ε}<ε\}\)
\(\mathcal{C}\)の数列\(a_i\)が正則であるとは、
すべての数列の項の台の共有が左有限であるということである。
\(\displaystyle \bigcup_{i=0}^∞ supp(a_i) \in \mathcal{F}\)
\(\displaystyle \mathcal{F}\) は、左有限集合の族。
\(\mathcal{C}\)の数列\(a_i\)が極限値\(a\)に強く収束するとは、
任意の\(0<ε \in \mathcal{R}\)に対して、次を満たす自然数nが存在すること。
\(|a_i-a|<ε \ for \ all \ i\)
\(\mathcal{C}\)の数列\(a_i\)が極限値\(a\)に弱く収束するとは、
任意の\(0<ε \in \mathbb{R}\)に対して、次を満たす自然数nが存在すること。
\(||a_i-a||_{1/ε}<ε \ for \ all \ i\)
関数\(f:D \subset \mathcal{R} → \mathcal{R}\)がDの点\(X_0\)で連続とは、
任意の\(0<ε \in \mathcal{R}\)に対して、次を満たす\(δ \in \mathcal{R}\)が存在すること。
\(|f(x)-f(x_0)|<ε \ for \ any \ x \in D \ |x-x_0|<δ\)
関数\(f:D \subset \mathcal{R} → \mathcal{R}\)がDの点\(X_0\)で連続とは、
任意の\(0<ε \in \mathcal{R}\)に対して、次を満たす\(δ \in \mathcal{R}\)が存在すること。
\(|f(x)-f(x_0)|<ε \ for \ any \ x \in D-\{x_0\} \ |x-x_0| < δ\)
この関数が、等連続とは、δが\(δ~ε\)でとれる時を言う。
関数\(f:D \subset \mathcal{R} → \mathcal{R}\)がDの点\(X_0\)で微分係数\(g\)に微分可能とは、
任意の\(0<ε \in \mathcal{R}\)に対して、次を満たす\(δ \in \mathcal{R}\)が存在すること。
\(\displaystyle \left|\frac{f(x)-f(x_0)}{x-x_0}-g\right|<ε \ for \ any \ x \in D-\{x_0\} \ |x-x_0| < δ\)
この場合、\(g=f'(x_0)\)と書きます。
ここで、δが\(ε~d^kδ\)から選ぶことができる場合、k-等微分可能という。
レヴィ=チヴィタ体上の関数の例
期待と違った結果を示す関数の例です。
関数例1
\(f_1:[0,1]→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(f_1(x)=\begin{cases} d^{-1} & 0≦x<d の場合 \\ d^{-1/λ(x)} & d≦x≪1 の場合\\ 1 & x ~1 の場合 \end{cases}\)
すると、\(f_1\)は[0,1]で連続ですが、\(d≦x≪1\)の\(x\)では、\(f_1(x)\)は際限なく大きくなります。
関数例2
\(f_2:[-1,1]→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(f_2(x)=x-x[0]\)
\(f_2\)は[-1,1]で連続ですが、\(f_2\)は[-1,1]で最小値も最大値もありません。
\(f_2([-1,1])\)は、上は任意の正の実数、下は任意の負の実数の間で囲まれています。
しかし、最小の上限の数も、最大の下限の数もありません。
関数例3
\(f_3:[0,1]→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(f_3(x)=\begin{cases} 1 & x ~1 の場合 \\ 0 & x ≪1 の場合 \end{cases}\)\(f_3\) は[0,1]で連続で(0,1)で微分可能です。
\(f_3′(x)=0 \ for\ all \ x \in (0,1)\)です。
\(f_3(0)=0,f_3(1)=1\)ですが、\(x \in [0,1]\)の任意の\(x\)に対して\(f_3(x)≠1/2\)です。
\(f_3\)は[0,1]で定数関数ではありませんが\(f_3′(x)=0 \ for \ all \ x \in (0,1)\)です。
関数例4
\(f_4:[-1,1]→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(\displaystyle f_4(x)=\sum_{ν=1}^∞x_ν d^{3{q_ν}}\)
ここで\(\displaystyle x=x[0]+\sum_{ν=1}^∞x_ν d^{q_ν}\)とする。
全ての\(x\in(-1,1)\)に対して、\(f_4′(x)=0\)ですが、\(f_4′(x)\)は、[-1,1]で定数ではありません。
関数例5
\(f_5:(-1,1)→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(f_5(x)=-f_4(x)+x^4\)
ここで\(f_4(x)\)は関数例4の関数です。なので、\(f_5′(x)=4x^3 \ for \ all \ x \in (-1,1)\)です。
(0,1)上で\(f_5′>0\) ですが、\(f_5\)は\(\{x|0<x≪1\}\)で強い減少関数です。
(-1,1)上で\(f_5”≧0\)なので\(f_5’\)は強く増加している。
しかし、(-1,1)上で\(f_5\)は凸関数ではない。なぜなら、
\(f_4(d)=-d^3+d^4<0=f_5(0)+f_5′(0)d\)
関数例6
\(f_6:(-1,1)→\mathcal{R}\)を次のように定義する。
\(f_6(x)=-(f_4(x))^2+x^8\)
\(f_6\)は(-1,1)で無限回に微分可能です。
1≦j≦7では、\(f_6^{(j)}(0)=0\)で、\(f_6^{8}(0)=8!>0\)です。
しかし、\(f_6\)は0で極大値を持ちます。
非アルキメデス体の順序体における微積分
上記の例で具体的になった問題は、\(\mathcal{R}\)に固有のものではありませんが、すべての非アルキメデスの順序体に共通しています。
これは、\(\mathcal{R}\)の順序によって作られた位相で切断されている事から生じています。
これによって、体の解析を実数体の場合より困難にしています。
例えば、関数例4のように、微分係数が区間のどこでもなくなってしまう非定数の関数の存在があり、これは積分をはるかに難しくしています。
最も簡単な初期値問題、たとえば、\(y’=0;y(0)=0\)の解を一意でなくしています。