正則行列と正規行列は違うもの

数学

名前は似ていますが、正則行列(regular matrix)と正規行列(normal matrix)は異なります。

正則行列は、可逆行列(invertible matrix)、非特異行列(nonsingular matrix)とも呼ばれます。

正規行列、正則行列、可逆行列、非特異行列の定義

  • 正規行列:\(A^*A=AA^*\)の関係が成立する行列\(A\)
  • 正則行列:可逆行列の事。
  • 可逆行列:乗法における逆元を持つ正方行列。
  • 非特異行列:行列を線形変換とみたとき、0に移す元が0のみである行列。

\(A^*\)とは、\(A\)の転置行列で各成分を共役複素数に変換した行列の事です。

\(A^*\)は、\(A\)の随伴行列とかエルミート行列、共役転置などと呼ばれます。

特異性と非特異性について

線形変換もしくは行列が非特異と呼ばれるのは、変換先が0になるのは0の時に限るということです。

そうでない場合は、その変換もしくは行列を特異行列(singular matrix)と呼びます。

たとえば、\(A\)を\(m行n列\)の行列、\(x\)を\(n\)次元ベクトルとします。

行列\(A\)とベクトル\(x\)の積\(Ax\)が0ベクトルになるのが\(x=0\)の時に限るとき、その行列\(A\)を非特異行列となります。そうでないとき、すなわち\(Ax_1=0\)となる0ベクトル以外のベクトル\(X_1\)があるとき、\(A\)は特異行列になります。

\(m<n\)の場合、\(m行n列\)行列\(A\)は必ず特異行列となります。

正則行列は正方行列であることが前提ですが、特異行列や非特異行列は必ずしも正方行列とは限りません。

逆行列について

\(n\)次元正方行列\(A\)が可逆行列であるというのは、\(AB=BA=I\)となる\(n\)次の正方行列が存在するときです。ここで、\(I\)は\(n\)次正方行列の単位元を指します。

\(n\)次の行列\(A\)に対して、\(BA=I\)となるような正方行列\(B\)があったとします。この場合、\(AB=I\)も成立することが示せます。

また、\(A\)の乗法に関する逆元が存在した場合、それは一つだけです。すなわち、\(BA=I,CA=I\)が成立していたとすると、\(B=C\)が示せます。\(A\)が逆元を持つ場合、それは唯一であるということです。この唯一の逆元の事を\(A^{^1}\)と書きます。

非特異行列の性質

\(A\)を\(n\)次の正方行列としたとき、下記の条件はすべて同値です。

  1. \(A\)は非特異行列である。
  2. \(A\)の逆行列\(A^{-1}\)が存在する。
  3. \(rank(A)=n\)
  4. \(A\)の行ベクトルは線形独立である。
  5. \(A\)の列ベクトルは線形独立である。
  6. \(A\)の行列式\(det(A)\)はゼロでない。
  7. \(A\)の値域は\(n\)次元である。
  8. \(A\)の核は\(0\)次元である。
  9. 任意の\(n\)次元ベクトル\(b\)に対して、\(Ax=b\)は解を持つ。
  10. \(Ax=b\)が解を持つ場合、それは唯一の解である。
  11. 任意の\(b\)に対して、\(Ax=b\)が唯一の解を持つ。
  12. \(Ax=0\)の唯一の解は\(0\)である。
  13. \(0\)は\(A\)の固有値でない。

\(n\)次元の非特異な正方行列全体は群となります。

\(A\)が非特異なら、その逆行列\(A^{-1}\)や、転置行列\(A^{T}\)も非特異です。

正規行列

 正則行列が逆元を持つ行列というのに対して、正規行列は対角可能な行列と特徴づけることができます。

\(A^*A=AA^*\)が成立することと、対角行列\(Λ\)とユニタリー行列Uで\(A=UΛU^*\)と表すことができる事が同値だからです。

以下、\(A\)を\(n\)次元正方行列とします。

  1. 対角行列は正規行列である。
  2. ユニタリー行列や直行行列は正規行列である。
  3. エルミート行列や対角行列は正規行列である。
  4. 歪エルミート行列や交代行列は正規行列である。
  5. \(A\)が正規行列で\(α\)を任意の複素数とすると、\(αA\)も正規行列である。

例題

\(A=\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix}\)

という形の行列は正規行列になります。

\(AA^*=\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \bar{a} & -\bar{b} \\ \bar{b} & \bar{a} \end{pmatrix}\)

\(=\begin{pmatrix} |a|^2+|b|^2 & -a\bar{b}+b\bar{a} \\ -b\bar{a}+a\bar{b} & |a|^2+|b|^2 \end{pmatrix}\)

\(=\begin{pmatrix} \bar{a} & -\bar{b} \\ \bar{b} & \bar{a} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix}=A^*A\)

\(a,b\)が実数の場合、\(A\)は交代行列で、\(b\)が純虚数の場合\(A\)はエルミート行列になります。

\(b=1+i\)の場合、

\(A=\begin{pmatrix} a & 1+i \\ -1-i & a \end{pmatrix}\)で、

\(A^*=\begin{pmatrix} a & -1+i \\ 1-i & a \end{pmatrix}\)ですから、

\(A\)はエルミートでも歪エルミートでもない正規行列になります。

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